私たちが使う電波や光の多くは人工的に作られていますが、自然界は人類が電波を発明するはるか以前から電磁現象に満ちています。太陽光そのものが電磁波であり、雷は巨大な放電で、地球は一つの磁石です。本稿では、太陽と地球、雷、生き物、天気の4つの側面から自然界の電磁現象を整理します。
太陽と地球の磁場
地球に届くエネルギーのほぼすべては、太陽から可視光・赤外線・紫外線として届く電磁波です。太陽の表面ではフレアやコロナ質量放出(CME)が起こり、強いX線や紫外線、そして荷電粒子の流れが地球に向かうことがあります。地球の磁場はこの粒子の多くをさえぎるバリアとして働きますが、一部は磁力線に沿って極地方の高層大気に流れ込み、酸素や窒素の原子と衝突して発光します。これがオーロラで、緑や赤は主に酸素、青や紫は窒素の発光によるものです。
大きな太陽活動は地磁気を大きく乱す磁気嵐を引き起こし、短波通信や衛星測位の乱れ、送電網への誘導電流といった影響を及ぼします。1989年にカナダ・ケベック州で起きた大停電は磁気嵐が原因でした。こうした「宇宙天気」は米国のNOAAや日本のNICTが常時監視し、予報を出しています。
雷と大気の電気
雷は、雲の中で分かれた電荷が空気の絶縁を破って一気に流れる放電現象です。放電路は光と熱を出すだけでなく、広い帯域の電波を放ちます。AMラジオで雷雨のときに聞こえる「パチッ」というノイズがそれで、遠い雷の電波は地球と電離層の間を伝わって遠方まで届きます。地球と電離層の間の空間には、世界中の雷を源とする微弱な共振(シューマン共振)が常に存在しており、自然界の電磁的な背景をなしています。
生き物と電磁波
- 植物:光合成は太陽光の可視光を化学エネルギーに変える仕組みで、生態系のほぼすべてを支えています。
- ハチと花:ミツバチは人には見えない紫外線を見ることができ、多くの花には紫外線でだけ見える蜜への目印の模様があります。
- ヘビ:マムシやガラガラヘビの仲間は、顔にあるピット器官で獲物の体温が放つ赤外線を感じ取り、暗闇でも位置を捉えます。
- 渡り鳥・ウミガメ・サケ:長距離の移動で地磁気を手がかりにしていると考えられており、その感知の仕組みは現在も研究が続いています。
- サメ・エイ:頭部の感覚器で、獲物の筋肉が出す微弱な電場を感知します。
なお、コウモリやイルカの反響定位は超音波、つまり音波によるもので、電磁波ではありません。
天気を電磁波で見る
天気予報も電磁波に支えられています。気象レーダーは電波を発射し、雨粒からの反射で降水の位置と強さを捉えます。気象衛星は可視光と赤外線で雲を撮影し、夜間でも雲の温度から高さを推定します。こうした観測は防災、農業、航空運航に欠かせない情報源になっています。
日本への示唆
自然界の電磁現象のうち、日本の社会基盤に直接関わるのは宇宙天気です。磁気嵐は緯度の低い日本でも短波通信やGNSSの精度に影響するため、NICTの宇宙天気予報やNOAAのスケールを知っておく意味があります。同時に、雷や地磁気、生物の感覚といった自然の電磁環境を理解することは、人工電波の安全性や電磁環境の議論を冷静に読むための基礎になります。