電磁波は美しい自然現象であると同時に、現代社会の見えない基盤です。本稿では「情報」「命」「エネルギー」の三つの側面から、社会が電磁波に何を委ねているかを整理し、その依存の裏側にある課題を考えます。
情報の基盤
携帯電話、Wi-Fi、テレビ・ラジオ放送、衛星通信は、いずれも電波で情報を運びます。海底ケーブルや光ファイバーで運ばれる光も電磁波の一種です。見落とされがちなのが時刻です。GPSなどの衛星測位システム(GNSS)は位置だけでなく正確な時刻を配信しており、通信網の同期や金融取引の時刻記録、電力系統の監視にもその時刻が使われています。位置と時刻の両方が、宇宙から届く微弱な電波に依存しています。
命を守る基盤
- 医療:X線撮影・CT・MRIによる診断、放射線治療、赤外線や電波を使った各種の計測が、診断と治療の中核を担っています。
- 気象・防災:気象レーダーが雨雲を、気象衛星が雲の分布を捉え、予報と警報の根拠になります。防災行政無線、消防・救急の無線、緊急速報の配信も電波です。
- 交通の安全:航空管制レーダー、船舶のレーダーと無線、鉄道の列車制御、自動車の衝突被害軽減レーダーが事故を防いでいます。
エネルギーの基盤
太陽光発電は、太陽から届く電磁波のエネルギーを電気に変える仕組みそのものです。送電網では、変圧器が電磁誘導によって電圧を変え、発電所から家庭まで電力を届けています。IH調理器や工業用の誘導炉は電磁誘導で金属を直接加熱し、電子レンジはマイクロ波で加熱します。電力の輸送と利用の多くの段階で、電磁気の法則が働いています。
依存の裏側にある課題
これほど多くを委ねているということは、電磁環境が乱れたときの影響もそれだけ広いということです。1989年にはカナダ・ケベック州で磁気嵐による誘導電流が送電網を止め、大停電が起きました。太陽フレアは短波通信やGNSSの精度に影響し、その規模はNOAAのR・S・Gスケールで表されます。高高度核爆発による電磁パルス(HEMP)は、電力・通信の広域障害の可能性として、米国ではCISAやDOEが防護と耐性の指針を示しています。日常的な水準では、機器同士の干渉や意図的な妨害電波も、通信や測位の信頼性を損なう要因です。
重要なのは、こうしたリスクを「電磁波は危険だ」という話に短絡させないことです。課題は電磁波そのものではなく、それに依存した仕組みが乱れに耐えられるかどうか、つまり耐性(レジリエンス)の設計にあります。
日本への示唆
日本は通信・測位・電力の依存度が高く、島国ゆえに衛星や海底ケーブルへの依存も大きい国です。電波は総務省が周波数を管理し、宇宙天気はNICTが監視しています。社会がどこで電磁波に依存しているかの地図を持つことは、宇宙天気やEMP、干渉といった脅威に対して、どの基盤から耐性を持たせるべきかという優先順位の議論を可能にします。見えない基盤を見えるようにすることが、その第一歩です。