携帯電話やWi-Fi、放送など、日常生活は電波(RFエネルギー)の利用の上に成り立っています。その安全性については、国際機関と各国の規制当局が曝露の限度を定め、機器メーカーはそれに適合していることを示す義務を負っています。Appleは自社製品のRF曝露に関する情報を専用のページで公開しています。本稿では、その情報を読むために必要な「SAR」という指標と、基準がどこで決まっているかを整理します。
SAR(比吸収率)とは何か
SAR(Specific Absorption Rate、比吸収率)は、人体の組織が電波のエネルギーを吸収する割合を、組織1キログラムあたりのワット数(W/kg)で表した指標です。携帯電話のように身体の近くで使う機器では、機器から放射される電波の強さそのものではなく、実際に身体が吸収する量で評価するため、この指標が使われます。
SARは、人体を模した模型(ファントム)の中に測定器を入れ、機器を最大出力で動作させた状態で測定されます。つまり公表されるSAR値は、通常の使用時よりも厳しい条件での上限に近い値です。実際の使用時は、基地局との距離や通信状況に応じて出力が下がるため、平均的な曝露はこれより小さくなります。
基準はどこで決まるか
SARの限度値は、国際的なガイドラインを基礎として各国の規制当局が定めています。
- ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会):科学的知見に基づく曝露ガイドラインを公表し、多くの国の基準の基礎となっている。頭部・胴体の局所SARの限度は組織10グラム平均で2.0 W/kg
- 米国 FCC:組織1グラム平均で1.6 W/kgという、平均化する組織の量が異なる独自の限度を採用
- 日本(総務省):電波防護指針に基づき、局所SARの限度を頭部・胴体で2.0 W/kgと定めており、ICNIRPと整合している
平均化する組織の量が異なるため、米国の値と日本・ICNIRPの値は単純に比較できません。同じ機種でも、国ごとに公表されるSAR値が異なるのはこのためです。
AppleのRF Exposureページに書かれていること
Appleは、法的情報の一部として「RF Exposure」ページを公開しています。そこでは、製品が販売される各国・地域の限度値を満たすように試験されていること、機種ごとのSAR値、頭部と身体に密着させた場合の試験条件などが確認できます。
あわせて、曝露をさらに減らしたい利用者向けに、スピーカーフォンやヘッドセットなどのハンズフリー機能を使う、機器を身体から離すといった方法が示されています。距離が離れるほど吸収されるエネルギーは急速に減るため、これは単純ながら効果的な方法です。
健康影響をどう捉えるか
世界保健機関(WHO)は電磁界の健康影響に関する科学的知見の評価を継続しており、現時点で、ガイドラインの限度以下の曝露によって健康への悪影響が生じることは確認されていない、という立場を示しています。一方で研究は続けられており、基準は新しい知見に応じて見直される仕組みになっています。
したがって、SAR値が限度内であることは「基準に適合している」という事実を示すものであり、それ以上でも以下でもありません。数値を過度に恐れる必要はなく、同時に、基準や試験方法の意味を理解した上で、自分の使い方に応じて距離やハンズフリーを選ぶことが、事実に基づいた向き合い方です。
まとめ
- SARは身体が吸収する電波エネルギーの指標で、最大出力での測定値
- 限度値はICNIRPを基礎に各国が定め、日本は頭部・胴体で2.0 W/kg
- Appleは機種ごとのSAR値と試験条件を公開し、曝露を減らす方法も案内している
- 限度以下の曝露による健康影響は現時点で確認されていないが、研究は継続中