電磁両立性(EMC)とは、機器が周囲に許容できない電磁妨害を「出さない」こと(エミッション)と、周囲からの妨害に「耐える」こと(イミュニティ)の両方を満たす性質です。この二つを国際的に定義しているのが IEC の規格群であり、各国の法規制はそれを土台にしています。本稿では、国際規格の階層と日本を含む各国制度の関係を整理します。
IEC 61000 シリーズと CISPR の役割分担
国際電気標準会議(IEC)の技術委員会が策定する IEC 61000 シリーズは、EMC の基本規格群です。用語や一般事項(Part 1)、電磁環境の記述(Part 2)、限度値(Part 3)、試験・測定技術(Part 4)、設置と低減のガイドライン(Part 5)、共通規格(Part 6)で構成され、たとえば静電気放電・放射電磁界・サージといったイミュニティ試験の方法は Part 4 に定められています。高高度核爆発による電磁パルス(HEMP)の環境を記述する IEC 61000-2-9 もこのシリーズの一部です。
一方、IEC 傘下の国際無線障害特別委員会(CISPR)は、主にエミッションの限度値と測定方法を担当します。工業・科学・医療用機器の CISPR 11、家電の CISPR 14、測定装置と方法の CISPR 16、マルチメディア機器の CISPR 32、車載機器の CISPR 25 などが代表的です。実際の製品には、製品固有の規格があればそれが優先され、無ければ製品群規格、さらに無ければ環境ごとの共通規格を適用するという階層構造で運用されます。
各国の制度への落とし込み
- EU:EMC 指令に基づき、IEC/CISPR 規格を欧州規格(EN)として整合させ、適合した製品に CE マーキングを求めます。エミッションとイミュニティの双方が対象です。
- 米国:FCC の規則(47 CFR Part 15)がエミッションを規制します。イミュニティは一般民生機器では一律に義務づけられていません。
- 日本:電波法が無線設備と高周波利用設備を規律し、情報技術装置のエミッションは CISPR 32 に整合した VCCI の自主規制が担います。家電製品の雑音については電気用品安全法の技術基準が該当します。国内規格としては IEC 61000 シリーズを JIS C 61000 系として翻訳・採用しています。
分野別の機器ガイドライン
- 自動車:ISO 7637(電源線の過渡電圧)、ISO 11452(車載機器のイミュニティ試験)、CISPR 25(車載機器のエミッション)が国際的な基盤です。
- 医療機器:IEC 60601-1-2 が医療電気機器の EMC 要求を定め、各国の医療機器規制がこれを参照しています。
- 防衛:米軍規格 MIL-STD-461 が軍用機器の EMC 要求を、MIL-STD-188-125 が HEMP に対する施設防護を扱います。
- 重要インフラの HEMP 防護:IEC 61000-2-9 の環境定義を出発点に、IEC 61000 シリーズの関連規格や CISA の防護ガイドラインが対策の考え方を示しています。
日本への示唆
日本の EMC 制度は、国際規格を JIS 化し、VCCI が CISPR に追随する形で国際整合を保ってきました。このため、国内基準に沿って設計した製品は EU や米国の制度にも比較的移行しやすい構造になっています。一方で、イミュニティを法的に義務づける範囲は EU より狭く、輸出時には追加試験が必要になる場合があります。また HEMP に関する規格は国内での認知がまだ限られており、重要インフラの防護指針として IEC 61000 シリーズをどう位置づけるかは今後の課題です。