太陽活動は2019年12月に始まった第25周期の極大期にあり、2024〜2025年頃がその中心とされています。本稿は旧版の「2023年の最新トレンドと影響」を、特定の年に依存しない枠組みで書き直したもので、活発な数年間に社会のどの系統が、どのように影響を受けるのかを整理します。太陽側の観測の話は別稿「太陽風とフレア観測から読む現在地」に譲り、ここでは地上側に焦点を当てます。
極大期に増えるのは何か
極大期にはMクラス・Xクラスのフレア、太陽高エネルギー粒子、CMEによる磁気嵐のいずれも頻度が上がります。NOAAはこれらを影響の種類ごとにR(電波障害)、S(放射線嵐)、G(磁気嵐)の三つの5段階スケールで表しています。三つは同じ日に一斉に高くなるとは限らず、フレア直後にRだけが出ることも、数日後にGだけが出ることもあります。「太陽嵐が来る」と一括りにせず、どのスケールの警報かを確認することが備えの出発点です。
通信と測位
Xクラスのフレアが起きると、昼側の電離圏で短波が吸収され、航空・船舶・アマチュア無線などの短波通信が数十分から数時間途絶します。旧版が「北米全土でラジオと航法信号が妨害された」と述べていたのはこの現象です。どの地域が影響を受けるかは、フレア発生時にどこが昼側だったかで決まるため、日本の昼間に大きなフレアが起きれば同じことが国内で起きます。
GNSS測位は、電離圏の擾乱による誤差の増大と信号の途切れという形で影響を受けます。測量、農業機械の自動操舵、航空の補強システム、金融・通信の時刻同期など、精密測位に依存する業務が対象です。準天頂衛星システムの信号も同じ電離圏を通るため、国産だから影響を受けないということはありません。
電力
磁気嵐で地磁気が急変すると地表に誘導電場が生じ、長距離送電線と変圧器の接地を通じて地磁気誘導電流(GIC)が流れます。変圧器の飽和と過熱、高調波、無効電力の急増を招き、1989年3月にはカナダ・ケベック州で送電系統が崩壊しました。GICは高緯度で大きく、中緯度の日本は相対的にリスクが低いとされますが、極端な磁気嵐ではゼロにはなりません。
健康への影響について
旧版は太陽フレアが「私たちの健康にも影響を与える可能性がある」と記していましたが、地上では大気と地磁気が放射線を遮るため、一般の人への直接の健康影響は確立されていません。注意が必要なのは、放射線嵐の際に極域航路を飛ぶ航空機の乗務員・乗客の被曝と、宇宙飛行士です。航空会社は大規模な放射線嵐の際に航路を変更する運用を取っています。
日本での備え
- 予報の運用組み込み:NICTの宇宙天気予報とNOAAのR/S/G警報を受けて、系統ごとに誰が何をするかを手順化する。
- 通信・時刻の冗長化:短波やGNSSに依存する業務に、衛星通信や地上系の時刻源などの代替を用意する。
- 電力設備の点検:変圧器の中性点にGICを抑える装置を入れるなど、設備側の対策を検討する。
- 活動期は数年続く前提:極大期の後の下降期にも大規模事象は起きるため、単年の話題で終わらせない。
太陽の活発な数年間は、日本のインフラにとって備えを点検する機会です。年ごとの「最新トレンド」ではなく、系統別の影響経路と運用手順という形で知識を残すことが、次の周期にも通用する備えになります。