旧版の記事は、電磁パルス(EMP)を「太陽フレアによる自然発生型と核爆発による人工型」の二形態として一括りに説明していましたが、実務では両者は明確に区別されます。EMPという語は通常、高高度核爆発による電磁パルス(HEMP)を指し、太陽嵐の影響は地磁気誘導電流(GIC)として扱われます。本稿はこの二つの違いを整理し、それぞれに何が効くのかを説明します。
HEMP:核爆発による三成分のパルス
高高度で核爆発が起きると、放出されたガンマ線が大気中の電子をはじき飛ばし、地磁気の中で電子が運動することで強力な電磁波が発生します。国際規格IEC 61000-2-9は、この環境をE1・E2・E3の三成分で定義しています。
- E1:ナノ秒単位で立ち上がる最も速く強い成分。電界強度のピークは規格上、地表で1メートルあたり数十キロボルトに達します。短いケーブルやアンテナにも結合し、半導体を直接破壊します。
- E2:マイクロ秒から秒のオーダーで、雷サージに似た性質を持ちます。通常の雷対策である程度カバーできます。
- E3:秒から分のオーダーでゆっくり変化する成分。地磁気の擾乱として現れ、長距離送電線に準直流の電流を流します。
1962年7月に米国が太平洋上空約400キロメートルで行った核実験「スターフィッシュ・プライム」では、約1,400キロメートル離れたハワイで街灯の故障などの影響が報告され、HEMPの現実性が確認されました。米国では固定施設向けの防護規格としてMIL-STD-188-125-1が、重要インフラ向けの指針としてCISAのEMP防護・レジリエンスガイドラインがあります。
太陽起因:磁気嵐とGIC
太陽のCMEが地球に到達すると磁気圏が擾乱され、地磁気が数分から数時間の時間スケールで変動します。この変動が地表に誘導電場を生み、送電線と変圧器の接地を通じてGICが流れます。変圧器の飽和、過熱、高調波、無効電力の急増を招き、1989年3月にはカナダ・ケベック州で系統が崩壊しました。
性質としては、HEMPのE3成分に最も近いものです。逆に言えば、太陽嵐にはE1に相当する速い成分がありません。太陽フレアのX線は電離圏を乱して短波通信や測位に影響しますが、地上の電子機器を直接破壊することはありません。
何が違うのか
- 発生源:HEMPは人為的な核爆発、GICは自然現象。
- 予告時間:HEMPは事実上ゼロ。太陽嵐は CME の検出から到達まで1〜3日の猶予があり、NOAA や NICT が警報を出します。
- 周波数成分:HEMPはE1(速い)からE3(遅い)まで含む。太陽起因はE3相当の遅い成分のみ。
- 影響範囲:HEMPは爆発高度から見渡せる範囲(数百〜数千キロメートル)に集中。磁気嵐は地球規模で、高緯度ほど強い。
- 主な被害対象:HEMPは電子機器全般と送電網。太陽起因は送電網・衛星・短波通信・測位。
対策はどう分かれるか
E1に対しては、電磁シールド、フィルタ、サージ保護といった設備側の防護が中心で、予告がないため平時から組み込んでおく必要があります。E3とGICに対しては、変圧器の中性点にGICを抑える装置を入れる、磁気嵐の警報時に系統の運用余裕を確保するといった対策が共通して効きます。つまり、GIC対策はHEMPのE3対策と重なりますが、E1対策は太陽嵐には不要であり、逆に太陽嵐向けの予報連動の運用はHEMPには使えません。
日本への示唆
日本の送電網、通信網、データセンターは、太陽起因のGICとHEMPの両方から影響を受けうる位置にあります。二つを「EMP」と一括りにすると、予告のない脅威に対して予報頼みになったり、自然現象に対して過剰な設備投資をしたりと、備えを誤ります。どの脅威にどの対策が効くのかを切り分けたうえで、GIC対策のように両方に共通して効く部分から優先的に手を付けることが現実的です。