第3章では、太陽フレアとそれに伴う現象が地上のインフラにどう影響するかを整理します。ポイントは「どの現象が、どの経路で、どの系統に」効くのかを切り分けることです。第1章で見たとおり、フレアの電磁波、太陽高エネルギー粒子、CMEによる磁気嵐は、影響する対象がそれぞれ異なります。
短波通信と航空
フレアのX線が地球に届くと、昼側の電離圏の下層(D層)で電子密度が急上昇し、短波(HF)帯の電波が吸収されて通信が途絶します。デリンジャー現象と呼ばれ、数十分から数時間続きます。航空無線、船舶通信、アマチュア無線、一部の防災無線など、短波に依存する通信が対象で、NOAAのRスケールはこの影響の大きさを表しています。
高エネルギー粒子が届くと、極域では電離圏の吸収がさらに強まり、極航路を飛ぶ航空機が短波通信を失うことがあります。放射線被曝の観点からも、航空会社は大規模な放射線嵐の際に北極回りの航路を変更する運用を取っています。
GNSS(衛星測位)
磁気嵐やフレアによって電離圏の電子密度が乱れると、GPSなどの測位信号の伝播が遅れたり、揺らいだり(シンチレーション)します。結果として測位誤差が増大し、場合によっては受信が途切れます。単周波の受信機ほど影響が大きく、測量、農業機械の自動操舵、航空の補強システム、金融や通信の時刻同期など、精密な測位・時刻に依存する分野が影響を受けます。日本の準天頂衛星システムの信号も同じ電離圏を通るため、例外ではありません。
送電網と地磁気誘導電流(GIC)
磁気嵐で地磁気が急激に変動すると、地表に誘導電場が生じます。この電場が、長距離の送電線と変圧器の接地された中性点を経由して、ほぼ直流の電流を系統に流します。これが地磁気誘導電流(GIC)です。交流用の変圧器に直流成分が重なると鉄心が半サイクルごとに飽和し、過熱、高調波の発生、無効電力の急増を招きます。保護リレーの誤動作や電圧の崩壊につながれば、広域停電に発展します。
1989年3月13日、カナダ・ケベック州の送電系統はこのメカニズムで崩壊し、約9時間にわたって約600万人が停電を経験しました。1859年のキャリントン・イベントでは電信線に異常電流が流れ、電信局で火花や火災が報告されています。GICは高緯度で、かつ地盤の電気抵抗率が高い地域ほど大きくなる傾向があり、中緯度の日本は相対的にリスクが低いとされますが、極端な磁気嵐ではゼロにはなりません。
衛星
磁気嵐や放射線嵐は、衛星の表面帯電や放電、半導体のビット反転(シングルイベントアップセット)を引き起こします。また上層大気が加熱されて膨張し、低軌道衛星の大気抵抗が増えて高度が下がることもあります。
対策:運用と設計の両輪
- 予報連動の運用:磁気嵐の警報時に送電系統の運用余裕を確保する、衛星を安全モードに移す、航路を変更するなど、第2章の予報を運用手順に組み込む。
- 設備設計:変圧器の中性点にGICを抑える装置を入れる、重要な電子機器を冗長化する。
- 通信・時刻の代替手段:短波やGNSSに依存する業務に、衛星通信や地上系の時刻源などの代替経路を用意する。
まとめ
影響は「短波は昼側で即時」「GICは磁気嵐で1〜3日後」「測位は両方」と、現象ごとに時間差と対象が異なります。この違いを踏まえて備えを系統別に整理することが、日本のインフラ事業者にとって現実的な第一歩です。第4章では、こうした現象がどのような周期で増減し、どんな体制で観測されているかを見ます。