前回は米国の電磁干渉(EMI)規制の中核である FCC Part 15 の枠組みを見ました。しかし規則だけでは製品は市場に出ません。測定方法を定める規格、それを検証する試験所、認証を行う機関、そして対策技術を生み出す技術者のコミュニティが揃って初めて制度が機能します。本稿では、その担い手を整理します。
測定規格をつくる組織
- ANSI C63 委員会:FCC が参照する測定方法の規格(ANSI C63.4 や C63.10 など)を策定しています。エミッションの測定距離、アンテナ、試験配置といった実務の細部を定めます。
- IEEE EMC Society:電磁両立性を専門とする学会組織で、年次シンポジウムや論文誌を通じて測定技術や対策手法の知見を蓄積し、規格策定にも技術者を送り出しています。
- NIST(米国標準技術研究所):測定の基準となる計量標準を維持し、アンテナ校正や電磁界計測のトレーサビリティを支えています。
試験と認証の仕組み
FCC の規則に基づく試験は、FCC に登録・認定された試験所が行います。試験所は国際規格 ISO/IEC 17025 に基づく認定を受けているのが一般的です。無線送信機の認証は電気通信認証機関(TCB)が担い、FCC の代行として技術審査と FCC ID の付与を行います。日本国内にも米国向け試験に対応する試験所があり、国内で測定を済ませてから TCB の認証を受ける流れが定着しています。
分野ごとの規格
- 防衛:軍用機器の EMC 要求は MIL-STD-461 が定め、高高度電磁パルス(HEMP)に対する施設防護は MIL-STD-188-125 が扱います。
- 航空:航空機搭載機器の環境試験は RTCA DO-160 が用いられ、EMC に関する項目を含みます。
- 自動車:車載機器のエミッションは CISPR 25、イミュニティは ISO 11452 系の規格が国際的に使われ、米国でも SAE の規格と併せて参照されます。
- 医療:FDA は医療機器の EMC について国際規格 IEC 60601-1-2 を参照しています。
産業界の技術動向
対策技術の面では、スイッチング電源の高周波化に伴う伝導ノイズの抑制が長年の主題です。スイッチング周波数を拡散してノイズのピークを下げる手法や、受動フィルタに代えて能動的にノイズを打ち消すアクティブフィルタの応用が広がっています。基板設計では、グラウンド層の連続性の確保、ビアによる層間接続の密な配置、I/O 部を囲う「フェンス」構造などが定番の手法になっています。さらに 5G 基地局や Wi-Fi、電気自動車の充電設備など、高周波で大電力を扱う機器の増加が EMI 設計の重要性を押し上げています。
日本への示唆
米国の制度は FCC・ANSI・IEEE・NIST・試験所という分業で成り立っており、一つの組織が全体を担っているわけではありません。日本の製品が米国市場に出るには、この分業の中で自社製品がどの経路をたどるのかを把握する必要があります。また、IEEE EMC Society をはじめとする技術コミュニティの議論は、国内の設計手法や試験所の対応にも波及するため、動向を継続的に追う価値があります。