電磁パルス(EMP)とは、ごく短い時間に放出される強い電磁エネルギーの波を指します。空間を伝わったパルスは、電線やアンテナ、基板の配線に過大な電圧と電流を誘起し、電子機器の誤動作や回路の破損を引き起こします。本連載「EMPの基本理解」は全5章で、EMPの仕組み、社会への影響、防御の考え方と技術、そして制度の枠組みまでを順に整理します。第1章では、EMPの発生源と、防御を考えるうえで最も重要な三つの成分区分を解説します。
EMPの主な発生源
最もよく知られている発生源は、高高度での核爆発によって生じる高高度電磁パルス(HEMP)です。大気圏の上層で核爆発が起きると、放出されたガンマ線が大気の分子から電子をはじき出し、その電子が地球磁場の中で加速されることで、地上の広い範囲に強力な電磁波が降り注ぎます。1962年に米国が太平洋上空で行った核実験「スターフィッシュ・プライム」では、爆心から遠く離れたハワイで街灯の故障などの障害が報告され、この現象が広く認識されるきっかけになりました。
核兵器を使わない発生源もあります。高出力マイクロ波装置などの電磁的な妨害手段は、到達範囲こそ限られるものの、特定の施設や機器を狙って電子回路を機能停止させる目的で研究されています。また、太陽活動に伴う地磁気嵐も、後述するE3成分とよく似た影響を送電網に及ぼす自然現象です。本連載では人為的なEMPを中心に扱いますが、地磁気嵐への備えと重なる部分が多いことは覚えておく価値があります。
E1・E2・E3——三つの成分区分
HEMPは、時間の経過とともに性質の異なる三つの成分に分けて説明されます。この区分は国際規格 IEC 61000-2-9 でも採用されており、防御を設計する際の共通言語になっています。
- E1(高速成分):爆発直後、ナノ秒からマイクロ秒の単位で立ち上がる最も速い成分です。立ち上がりが極端に速いため、雷向けのサージ保護装置では応答が間に合いません。半導体を使った電子機器、通信装置、コンピュータ、制御機器が直接の標的になります。
- E2(雷に類似した成分):E1に続いて、マイクロ秒からミリ秒の単位で現れる成分で、特性は雷サージに似ています。既存の雷防護でかなりの部分に対処できますが、直前のE1で保護回路が壊れていると、そのまま機器に到達する点が危険です。
- E3(長周期成分):数秒から数分にわたって続く、ゆっくりとした成分です。地磁気嵐と同様に、長距離送電線や長い金属ケーブルに準直流の電流を誘起し、変圧器の飽和や過熱を招きます。標的となるのは個々の電子機器ではなく、送電網や長距離通信ケーブルといった広域インフラです。
重要なのは、三つの成分が「異なる速さで、異なる対象を、順番に襲う」という点です。E1で電子機器を、E3で送電網を同時に失えば、被害は単なる停電にとどまらず、復旧に必要な通信や制御の手段まで奪われます。
なぜ今、基礎理解が必要か
通信、電力、交通、医療、金融のいずれも、半導体と電力供給なしには成り立ちません。社会の電子依存が深まるほど、EMPがもたらす損害の範囲は広がります。日本は電力系統が海外と接続されていない島国であり、都市機能が首都圏に集中しているため、広域の電力・通信障害が長引いた場合の影響は大きくなります。EMPの三成分を正しく区別して理解することは、「何を、どの順で守るか」を考える出発点です。次章では、各成分が社会インフラにどのような影響を与えるのかを具体的に見ていきます。