第5回は、EMI(電磁干渉)対策を組込みシステムに適用する際の勘所を扱います。組込み機器は、スイッチング電源、高速クロック、無線モジュール、センサ、ケーブルを小さな筐体に同居させるため、ノイズの発生源と被害側が常に近くにあります。しかも自動車、産業制御、医療機器といった分野ごとに固有のEMC要件が課され、適合は出荷の条件です。
組込みシステム特有の課題
- 発生源の集中:電源変換のスイッチング、プロセッサのクロックとバス、無線送信が主なノイズ源で、これらが基板上で数センチの距離に並びます。
- 被害側の敏感さ:センサ入力やアナログフロントエンド、無線受信部は微小信号を扱い、わずかなノイズで測定誤差や通信失敗を起こします。
- ケーブルと外部環境:電源線、センサ線、通信線は放射のアンテナであると同時に、外来ノイズの侵入口です。車両や工場ではモータや大電流機器が近くにあります。
- コストと実装密度:部品数、基板層数、筐体材質がコストで制約され、対策の余地が限られます。
基板レイアウトの優先順位
最も効果が大きいのはグランドプレーンの連続性です。多層基板では一面をグランド専用にし、高速信号の直下に切れ目を作らないようにします。アナログとデジタルのグランドを分割する手法は、境界を信号が横切るとかえって放射が増えるため、分割するなら電流経路を設計したうえで行います。
次にループ面積です。クロックや高速バスの配線は短く、グランドプレーンの直上を通します。デカップリングコンデンサは電源ピンの直近に置き、ビアまでの配線を最短にします。スイッチング電源では、スイッチ・ダイオード・入出力コンデンサの間を流れる高周波電流のループを最小の面積にまとめます。
ノイズ源と敏感回路の分離も基本です。無線モジュールとスイッチング電源を基板の両端に置く、センサ入力の直近にフィルタを置く、といった配置は後から変更が難しいため、部品配置の最初の段階で決めます。
ソフトウェアでできること
EMIはハードウェアの問題と考えられがちですが、ソフトウェアにも寄与できる余地があります。多くのマイコンでは出力ピンの立ち上がり速度(スルーレート)や駆動能力を設定でき、必要以上に速い設定を避けるだけで高周波成分が減ります。クロックを周期的にわずかに揺らすスペクトラム拡散機能は、特定の周波数へのノイズ集中を緩和します。
イミュニティ側では、通信プロトコルに誤り検出と再送を組み込む、入力を多数決やフィルタで平滑化する、ウォッチドッグで異常状態から復帰する、といった設計が、外来ノイズによる誤動作を致命的な故障にしないために有効です。使わない周辺回路やクロックを停止することも、ノイズ源を減らす単純で確実な方法です。
開発プロセスへの組み込み
組込み機器では試作の回数が限られるため、プリコンプライアンス試験を設計の早い段階から行い、問題箇所を近傍電界プローブなどで特定します。基板設計ルール(プレーンの連続性、デカップリング配置、ケーブル終端)をチェックリストにし、回路設計者・基板設計者・ファームウェア開発者の間で共有することが、量産直前の手戻りを防ぎます。
まとめ
組込みシステムのEMI対策は、グランドプレーンの連続性、ループ面積の最小化、ノイズ源と敏感回路の分離という基板レイアウトの三原則に、ソフトウェア側の設定と耐性設計を組み合わせることで成り立ちます。次回は、吸収材やアクティブフィルタといった発展的な手法と、産業分野ごとの要件を扱います。